GEW12月号
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ゴルフボールに 大きな変革はあった?317ヤード(誤差+3ヤードまで許容)を上限とする。テストに合格したボールは2028年1月からR&AとUSGAの「適合球リスト」に掲載され、晴れて合格品として競技に使用できる。それ以前の適合リストに載っていた「旧適合球」は、2030年1月まで使用可能。これは、移行期間の混乱を防ぐのが目的だ。先のヘッドスピードをm表記に直すと「55・88m/秒」となる。この速さで振れるゴルファーはトッププロかアマでもかなりの飛ばし屋だから、一般ゴルファーはほぼ対象外と言える。新しい適合球は現在の適合球に比べ、米ツアーの飛ばし屋で13~15ヤード、平均的なプロで9~11ヤード、女子プロで5~7ヤードの飛距離減が想定される。 ボール規則に関わる大きな改定は踏み切るのか? ナイキのボール事業立ち上げを含め、大手3社のボール開発に関わってきたロック石井氏が次のように説明する。「私は数年前までUSGAでボール規則の技術コンサルをしてました。ルール改定の理由は大きくふたつ。飛距離性能に歯止めをかけないと、ゴルフがロングヒッター有利のゲームになってしまう。そして、ゴルフ場は距離を伸ばさなければ対応できず、これに関わる様々な懸念があるからです」特に、後者の懸念については多くの指摘があるという。コース全長を8500ヤードまで伸ばさないとツアー競技に対応できない。土地取得や芝地面積が拡大すると、散水量や肥料、管理コストの増大がゴルフ場経営を圧迫し、環境面でもマイナスになるというものだ。かつて、ドライバーの「高反発規制」やウエッジの「溝規制」に踏み切った際、USGAとR&Aはメーカーから激しい反発を受け、訴訟に発展したこともある。「ですから両団体はメーカーに不利益が生じないよう、丁寧なヒアリングを重ねてきました。新基準をクリアすることは技術的に難しくないし、対象はあくまでロングヒッター。一般ゴルファーの飛距離はドライバーで3~5ヤード減と試算されますが、それぐらいのミスショットはよくあること。むしろ心配なのは『飛ばないボール』のイメージが独り歩きすることです」           石井氏は、実体以上にイメージの問題を懸念している。ゴルフはイメージに影響を受けやすいスポーツとされ、ゆえに高額な用具が売れてきた面がある。「高額品は高性能」という価格信仰は、見栄も含めて一部に根強く、ゴルフ用具がイメージに左右されやすい証左と言える。規則改定で「飛ばないボール」の烙印を押されたら、その影響は計り知れない。二木ゴルフでリペアトレーナーを務める岡安佑介氏も、そんな不安を募らせている。「一例にPRGRの高反発ドライバーがあります。ゴルフ規則では非適合ですが、今も一定層に支持されている。飛ばなくなったらゴルフをやめると話すシニアは少なくないので、飛ばないボールが及ぼす心理的影響は強いでしょう。もちろん、ゴルフはルールとマナーが大事ですが」都内で営業するインターゴルフ工房の宇井浩己氏も、規則改定が「逆風」になることを心配する。「クラブ市場が厳しい中、ボールのルール改定が逆風になることが心配です。昔、ラージボールとスモールボールが混在した時代がありました。当時は会話の中で『ルールが変わるの?』というやり取りがあったけれど、今はネットの情報伝達が格段に速い。ネガティブな声が広がると影響は計り知れません」3年後に迫る改定に、今から不安な様子を見せるのだ。より深刻なのは、水面下でゴルフボールの低価格化が進んでいることだろう。長引く景気低迷も影響して専門店の売れ筋1位は「ロストボール」という現象が、一部の専門店で表われている。これは長年、ボール市場に変革が起きず、新製品の魅力が弱まったからと見るムキもある。「たしかに大きな変革は、長年起きていないかもしれません」と話すのは、ブリヂストンスポーツ(BS)で開発に携わり、現在はゴルフ記者の嶋崎平人氏。同氏が次のように振り返る。「ボール市場の大きな変革は、糸巻からソリッドに変わった2000年でしょう。糸巻の代表格だったタイトリストがこれをやめて、ソリッドボールに切り替えた。糸巻構造の原型はハスケルボールの誕生(1898年)だから、1世紀以上支持されま025DECEMBER 202420年ぶりだが、そもそもなぜ改定に

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